僕が婚活市場で出会った “こじらせ美女” との夜の交情【石神賢介】
『57歳で婚活したらすごかった』著者・石神賢介のリアル婚活レポート第4回
■行為中に犬に尻をなめられる
ベッドサイドの電話のコール音で目が覚めた。時計を見ると深夜の1時半だ。30分くらいうとうとしたようだ。誰だろう? ベッドのかたわらの受話器をとる。
「なんで眠っちゃうの!」
いきなり怒鳴られた。マイさんの声だ。
「はあ……」
状況がすぐには理解できない。
「何度もスマホに電話しているのに!」
「そうなの……?」
スマホを確認すると、確かに5回、着信があった。
記憶が少しずつよみがえってくる。マイさんとホテルに入ったものの、いざというときに彼女が泣きだして、帰られてしまったのだ。
彼女は帰宅して、すぐに電話しているらしい。僕がスマホにでないので、ホテルにかけたのだ。
「さっき、マイちゃん、泣いちゃったでしょ?」
「うん」
「それで帰ったでしょ?」
「うん」
「それで、マイちゃんがいなくなったら、すぐ眠っちゃったわけ?」
「気づいたら眠っていた」
「よく眠れるよね? マイちゃん、大丈夫かな、って心配じゃなかったわけ? ふつうは気になって電話くれるでしょ!」
「ごめんなさい」
謝るしか、対応が思いつかなかった。まだ僕の脳は覚醒していない。とにかくこの場を収めたい。
「来て!」
「えっ?」
「今からマイちゃんのうちに来て!」
彼女の家は渋谷からはすぐだ。深夜だから、タクシーで5分もかからないだろう。でも、眠りたい。
「今、眠りたいと思ったでしょ?」
するどい。
「来て!」
彼女は早口で住所を言った。僕に選択肢はなさそうだ。電話を切っても、何度もかけてくるだろう。スマホも合わせて、すでに6回目のコールなのだ。
覚悟を決めてホテルを出て、10分後にはマイさんの部屋のインタフォンを押していた。
部屋に入るなり、犬が鳴き始めた。トイプードルのケンちゃんとミミちゃんだ。オスのケンちゃんは深夜の見知らぬ侵入者を警戒し、離れたところでうなっている。メスのミミちゃんは歓迎して、しっぽを高速で振りながらまとわりついてくる。
「こーら、ミミちゃん、おとなしくしてなさあーい」
マイさんは犬をあやし、ケンちゃんのほうを抱いて奥へ引っ込んでしまった。僕はしかたがなく、低くしゃがんで、残されたミミちゃんと戯れる。ミミちゃんが僕の手の甲をペロペロ舐める。
「じゃーん!」
マイさんが再び現れた。ホテルのときと同じ下着をつけている。
「さあ、続きをやりまちょうね」
電話で激怒していた同じ人間とは思えない満面の笑みだ。
そのとき、にわかにアンモニア臭が鼻をついた。足もとを見るとフローリングに小さな水たまりができている。ミミちゃんがウレションをしたのだ。
「この環境で、エッチなことをするのでしょうか?」
マイさんに確認をする。
「ちょっと待ってて!」
そう言うと、彼女は手際よく水たまりを処理し、ミミちゃんもケージに入れた。犬は素直にケージに入った。しつけはできているようだ。でも、まだクークー鳴いている。かすかにアンモニア臭は残っている。エッチな気持ちになどなれない。
マイさんはそんなことはおかまいなしで、自分の下着をとり、母親が幼児の世話をするように僕の服も脱がせ、ベッドへ誘う。
やるのか? ほんとうにここでやるのか?
しかし、この状況から逃げるのは困難だ。幸い犬の鳴き声は小さくなってきた。僕がいる状況に慣れたのだろう。もうやぶれかぶれだ。頭の中で必死にエロティックなことを考え、自分を奮い立たせる。57歳になり、復活に時間がかかるようになった。それでもあきらめず、過去のエロい体験を記憶からたぐり寄せる。
ちょっと元気になってきた。タイミングを逸すると自分の復活はないと思い、一気に突撃する。よし、いい感じだ。
うん? そのとき、僕の尻に温かくざらざらと湿った何かがペタペタペタと触れた。なんだ? ふり向くと、ケージから脱走したミミちゃんが、しっぽを振りながら、僕の尻をなめていた。
マイさんの部屋を出ると、東の空が白々と明けてきた。僕は一度ホテルに戻り、チェックアウト時間まで睡眠をむさぼった。
(第5回「華道の先生、ユキコさんとのその後」につづく)
※石神賢介著『57歳で婚活したらすごかった』(新潮新書)から本文一部抜粋して構成
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